スーツの教養

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【スーツとは、思想である。】

チャールズ2世「衣服改革宣言」から始まる、スーツの美学と進化の物語

「余は新しい服装一式を採用することにした。この衣装は、もう変えることはない」
1666年10月、イングランド王チャールズ2世は、王の装いを一新する“衣服改革宣言”を発しました。

この宣言こそが、現代に至るまで続く**「スーツの原型」**を形作った——
言うなれば、“スーツという思想のOS”がインストールされた瞬間です。

◆ なぜ国王が「服装」を変える必要があったのか

時代背景は、極めて混沌としていました。

1665年にはペストの大流行、
1666年にはロンドン大火が勃発。
民衆の不満は、王室の贅沢と浪費に向けられていました。

しかもチャールズ2世は、派手で豪奢なフランス・ルイ14世に強い対抗意識を燃やし、これまでは豪華なファッションを好んでいた人物。
だからこそ、その“衣服改革”は驚きをもって迎えられたのです。

王は言いました。

「貴族は倹約をしなさい。見えるところには品位を、見えないところには簡素を」

この宣言により、王侯貴族の華美な装いは姿を消し、**「上着・ベスト・パンツ・シャツ・タイ」**という、スーツのプロトタイプが登場しました。

”スーツのシステムの元祖の誕生です”

◆ スーツの進化と“さりげなさ”の哲学

しかし、この「原型」はすぐに完成形になったわけではありません。

▽ 18世紀:マカロニ族とスーツの可塑性

18世紀に入ると、イタリア帰りの伊達男たち「マカロニ族」が登場。
彼らは華やかな装飾品や、身体に沿うシルエットでスーツを、正に“装飾する”という方向に。スーツは「個性を忍ばせる」装いへと進化していきます。

そんな彼らは、スーツのシルエットにも拘りを持ち、ジャケットに内ポケットを付け、必要なモノだけをその内ポケットに入れ、全体的な美しいシルエットを好みました。
この考えは、現代のスーツの着かたにも繋がっていますね。

▽ 長ズボンの起源はフランス革命

そして忘れてはならないのが、フランス革命。
貴族が履くキュロット(半ズボン)は、「民衆からの反感の象徴」でした。

だからこそ——
革命派=“サン・キュロット”(sans-culotte=キュロットを履かない者たち)は、長ズボンを選んだのです。
イギリスもその影響を受け、徐々にスーツスタイルが「長ズボン」へと移行していきます。

◆ スーツの哲学を完成させた男——ボー・ブランメル

そして19世紀初頭。スーツの“思想”に決定的な方向性を与えたのが、ジョージ・ブライアン・ブランメル。通称ボー・ブランメルです。

「通りを歩いていて、人が振り返ったら、あなたの装いは失敗である」

これが、ブランメルが掲げた“さりげなさの美学”。

彼は豪奢を否定し、代わりに——
        •       素材にこだわり
        •       完璧なフィット感を追求し
        •       洗練された清潔感を徹底

ネッククロス(ネクタイ)を何十回もやり直し、シャツは郊外の澄んだ水で洗い、靴はシャンパンで磨き上げる——

**装いに妥協を許さない「攻めの抑制」**こそが、彼の哲学でした。

☆ボーブランメルの服装術

・装飾と色彩と無駄を極力抑制すること。代わりにシンプルでも最高の素材を使い、身体に完全にフィットさせるように仕立てさせる

・清潔さの徹底。身支度に2時間掛けオーデコロンさえ使わない。シャツの白さを際立たせるため、カントリー郊外でシャツを洗わせる。靴は靴底に至るまでシャンパンで磨く

・ネッククロス(今でいうネクタイ)の結びは完璧にする。軽く糊付けして針を出させる。失敗作が山積みになっても当然の事!

・徹底した抑制、排除、引き算、消去(攻めの否定)

・何事も動じないクールな無関心の徹底(何事もばっさり切り捨てる)

※ブランメルの美学 伝統貴族のマナー、贅沢等に対して

”スーツに対する美学の元祖の誕生です”

◆ スーツが“世界共通語”になった理由

その後、産業革命によってスーツは労働階級にまで普及し、「一見すると誰もが同じ装い」をするようになります。

しかしこれは、逆に言えば——
“中身”や“教養”こそが人を測る基準になったということ。

だからこそ「ドレスコード」や「装いのマナー」が必要になったのです。

▽ 19世紀:フロックコートからラウンジスーツへ

▽ 20世紀初頭:「近代スーツ」の完成

ラウンジジャケット、モーニングコート、タキシードなどが生まれ、現在のスーツの形式が整っていきました。

◆ スーツには、“思想”がある

この流れを象徴するのが、**チェスターフィールド4世(フィリップ・ドーマー・スタンホープ)**の著書『父から息子への手紙』。

「個性の出ない服装こそ、最高の身だしなみ」

その思想は明確です。
        •       派手な格好は、内容のない自分をごまかすためのもの
        •       無頓着な格好は、相手への敬意を欠くもの
        •       最も大切なのは、「場」にふさわしい装いを選ぶこと

この“紳士道”の精神は、現代のオーダースーツにも脈々と流れています。

※「個性の出ない服装こそ、最高の身だしなみ」とは?

・派手な格好は、内容のない自分を隠すためにわざと威圧的な格好をしている

・着るものに全く頓着がない人は論外

・その場に合わせた適切な格好をする

・立派な服も、簡素な服も身体にぴったり合った服を着る

と、言うものでした。

◆ 「新品は恥ずかしい」——イギリスの古着文化

イギリスでは、使い込んだスーツこそ“粋”とされました。
新品のスーツは“着慣れていない未熟者”の印とも。

これはまさに、「スーツ=人生を重ねた証」という考え方。
リユース・リサイクルを美徳とする、元祖SDGs的精神がここにあるのです。

◆ そして現代へ──“美服はすべての門を開く”

ヨーロッパには、こんなことわざがあります。

「美服はすべての門を開く」

服装は、ただの見た目ではありません。
それは、社会との関係性を構築する“入口”であり、
自分という存在を語る“言語”でもあります。

◆ まとめ|スーツは「自由と教養の装置」である。

かつて、スーツは王の命令で生まれました。
しかし現代のスーツは、「自ら選びとる」自由の象徴です。
        •       自分の価値観を形にするため
        •       他者との関係を円滑にするため
        •       日常に“静かな誇り”を宿すため

今だからこそ、スーツを仕立てる意味があります。

ご相談、ご質問、お待ちしております。

オーダースーツカマクラ(Newsman/鎌倉スーツ)
東京都世田谷区 拠点|出張採寸専門・完全予約制
クラシック×現代性のバランスを追求した、「あなただけのスーツ」をお仕立てします。

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