ハーヴィー・スペクターを、そのまま作らなかった理由。
このお客様とは、スーツの仕事を始めるずっと前からの付き合いです。
実は私も以前、ハウスメーカーで営業をしていたことがあります。
理由は単純で、
「人の買い物で、一番高いものを売れるようになろう。」と思ったから。
営業の修行のつもりでした。
その時からの仲が、今回のお客様です。
今では某ハウスメーカーの店長。
今回、予算を聞いた上でご注文いただいたのは2着。
一着は、本人が以前から憧れていたダブルのブラックフォーマル。
そして、もう一着。
こっちの話が面白かった。
始まりは、私が着ていたスーツでした。
その日、私は映画『キングスマン』をイメージして作ったダブルのスーツを着ていました。
そこから映画の話になって、「海外ドラマの『SUITS』観てますよ。」という話になった。
当然、私も観ています。そうなると出てくるのが、
そう「ハーヴィー・スペクター。」あのスーツ姿です。
じゃあ、あの雰囲気で作ろう。話はそこから始まりました。
でも、
ハーヴィーのスーツを、そのまま作ろうとは思いませんでした。
憧れを、そのまま着せても格好良くならない。
ハーヴィー・スペクターのスーツは格好いい。
でも、あれはハーヴィー・スペクターが着ているから成立している部分もあります。
体型も違う。
骨格も違う。
当然、目の前のお客様はハーヴィーではありません。
だったら、コピーしても意味がない。
実際、ハーヴィーが着ているスーツのピークドラペルは、かなり細い。
それをそのまま日本人の体型へ持ってきても、私にはバランスが良いとは思えませんでした。
そこで今回は、ピークドラペルをしっかり広く取っています。
全体のシルエットも、そのラペル幅がちゃんと馴染むように組み直しました。
ハーヴィーを再現するのではなく、
ハーヴィーを見て「格好いい」と思った理由を、お客様の身体に置き換える。
今回やったのは、そういうことです。
その前に、今までのスーツも見せてもらいました。
お客様は、それまでも大手のオーダースーツ店でスーツを作っていました。
でも、「なんか、しっくりこない。」
実際に着てもらって、私も見ました。
当時の流行もあったと思います。
かなりタイト。
そして、ほんの少しですが、私にはスーツそのものが小さく見えました。
サイズ表の数字が入っているかどうかではありません。
着た人とスーツを一緒に見た時に、窮屈に見える。
そこが気になりました。
だから今回、ハーヴィーという分かりやすい題材はありましたが、
「細くして、それっぽく」にはしませんでした。
むしろ全体のバランスを取り直す。
その中で、ピークドラペルを広く取る。
生地はCANONICOのグレー・ピンストライプ。
ハーヴィーの雰囲気は残す。
でも、最後に着るのは目の前にいるお客様です。
そこは絶対に間違えないようにしました。
「これヤベー!!カッコいい!」納品して、着てもらった時。
一言目がこれでした。
「これヤベー!!カッコいい!」
昔から知っている相手なので、綺麗な感想なんていりません。
むしろ、こっちの方が嬉しい。(笑)
今回、私が作ったのは、
「ハーヴィー・スペクターのスーツ」ではありません。
ハーヴィーに憧れたお客様のために、
何を残して、
何を変えて、
どうすれば本人に馴染むのか。
そこを考えて作ったスーツです。
誰かの格好良さを参考にするのは、全然悪くない。
私だってやります。でも、
最後まで誰かの真似で終わったら、その人のスーツにはならない。
憧れを一度バラして、その人に戻す。
今回の一着は、そうやって作りました。
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今回の一着
生地 CANONICO/グレー・ピンストライプ
デザイン シングル/ピークドラペル
設計 本人の体型とのバランスを見て、ピークドラペルを広く設定
イメージ 海外ドラマ『SUITS』ハーヴィー・スペクター



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