私をオーナーにしてくれた人に、今度は私がスーツを作った。
この方には、かなりお世話になりました。
現在は商社の社長さん。
そして何より、
私の恩人でもあります。
今の私がある、そのきっかけを作ってくれた人の一人でもあります。
そんな方に、私がオーダースーツの事業を始めたことを話した時、
「それなら、ぜひ作ってみて欲しい。」と言ってくださいました。
今度は私が、自分の仕事を見てもらう番です。
これは、そんなところから始まった一着です。
この社長様、今までのオーダーは、たぶん「なんとなく」だった。
それまでスーツにものすごく拘る方ではありませんでした。
でも、オーダースーツを作った経験はある。
ただ、お話を聞いたり実際のスーツを見たりすると、
なぜこのサイズなのか。
なぜこのシルエットなのか。
ご本人にも、そこまで明確な理由はなかったように思います。
悪いわけではない。
普通に着られる。
でも、「なんとなく、こうなった。」に近かったんじゃないかなと思います。
だったら今回は、
採寸士が身体を見て、数字を採って、
その数字をどう使うのかまで考えて作ったら、どこまで変わるのか。
採寸士のスーツを一度、体感してもらいたいと思いました。
恩返しなんて言うと大袈裟ですが、
せっかく私に任せてくれるなら、今までとは違うものを返したかった。
社長だからといって、偉そうなスーツにはしない。
生地は、CANONICO。
秋冬用のネイビー、シャドウグレンチェックです。
遠くから見れば、かなり落ち着いたネイビー。
でも近づくと、グレンチェックが見えてくる。
光の当たり方や距離で、少しずつ表情が変わります。
この感じが、すごく良かった。
商社の社長という立場ですから、当然いろいろな人と会います。
だからといって、「社長なんだから、見るからに立派なスーツを」
とは考えませんでした。
必要なのは、ちゃんとその場に馴染むこと。
その上で、近くで見た時に少しエレガントであること。
目立たせるのではなく、その人が元々持っているものを邪魔しない。
この方には、そのくらいがちょうどいいと思いました。
少しだけ、変えました。
体型は、一般的な中肉中背です。
ただ、ご本人が多少気にされている体型の崩れがありました。
そこは採寸した数字をそのまま型紙へ流すのではなく、補正を組み合わせて整えています。
そしてデザインは、
3つボタン段返りの3ピース。
少しだけ変化を入れました。でも、それ以上はやりません。
ラペル幅。
ゴージライン。
着丈。
全体のシルエット。
Order Suit KAMAKURAとして、私が基準にしているバランスで組みました。
この方、元々かなり男前なんです。
だったら、スーツが前へ出る必要はない。
格好いい人を、スーツでもっと格好よくしようとし過ぎない。
むしろ余計なことをせず、整える。その方が、この人には合うと思いました。
「こんな事までできるんだ〜」
納品して、実際に着ていただいた時。
いろいろこのスーツについて説明しながら確認していると、「こんな事までできるんだ〜」と感心してくださいました。
そして、もう一つ。
「パンツの履き心地がいい。」これも言っていただきました。
実は、この言葉。
私が作ったスーツでは結構よく言われます。
見た目の話ではありません。
生地が高級だという話でもない。
毎日身体に触れるパンツを履いて、「履き心地がいい。」
そう感じてもらえた。
私はこういう言葉の方が嬉しかったりします。
このスーツを見て、「式典にもいいな」と思いました。
この一着は、入園式や卒園式のために作ったものではありません。
あくまで仕事用です。
ただ、出来上がった一着を見て、
こういうスーツこそ、子どもの入園式や卒園式で父親が着るのにいいな。
と思いました。
私は、子どもの入園式や卒園式では、
パパは黒子でいいと思っています。
主役は子ども。
準主役がお母さんたち。
そこで父親が派手に目立つ必要はありません。
ネイビーで、遠目には静か。でも近づけば、少し表情がある。
ちゃんと格好いいけれど、場を邪魔しない。
それで十分です。
というより、その方が格好いい。
子どもの大切な日に、自分が目立つためのスーツを着るんじゃない。
その場を大切にして、
主役である子どもに敬意と愛情を表すために装う。
私は、それが父親の式典服だと思っています。
この一着は、そんなことも改めて考えさせてくれたスーツでした。
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今回の一着
生地 VITALE BARBERIS CANONICO/ネイビー・シャドウグレンチェック
季節 秋冬
仕様 3ピース/3つボタン段返り
用途 商社社長としての仕事着
設計 体型の特徴を補正しながら、本人の持つ雰囲気を邪魔しないシルエットへ



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