【一着の設計記録:Newsmanの誕生】

1950年代スーツ【コラム】

Newsmanが生まれる前に、もうNewsmanはありました。

このスーツは、かなり気に入っています。
今でもです。
まだOrder Suit KAMAKURAに『Newsman』というモデルがなかった頃。
自分用としては、たしか3着目くらいだったと思います。

今振り返ると、この一着がNewsmanのプロトタイプでした。

そして、もう一つ。
今、私がずっと言っている「究極の普通」。
その原型も、この一着にはかなり入っています。

当時、そこまで言葉にできていたかは分かりません。
でも、作ろうとしていたものは同じでした。
普通のネイビー無地を、どこまで格好良くできるか。

選んだのは、KUNISHIMA1850。
春夏用のキッドモヘア混ウールです。

色はネイビー。無地。
何か珍しい柄が入っているわけでもない。

奇抜なデザインでもない。
でも、だからこそ誤魔化しが利きません。

私がやりたかったのは、
ネイビー無地の3ピースを、シルエットだけでどこまで格好良くできるか。でした。

生地も、この一着にはよく合っています。
キッドモヘアが入っているので通気性が良く、春夏でも着やすい。

そして何より、モヘアらしい張りがある。

この張りが、今回作りたかったシルエットをきちんと支えてくれます。
私が欲しかったシルエットは、アワーグラスでした。

この一着は、かなり数値を意識して作っています。

ゴージは低め。
ラペル幅は9.5cm。
三つボタン中掛け。
パンツは股上29cm。
インタック。帯幅5cm。

ただ、これらの数字を一つずつ真似しても、このスーツにはなりません。
大事なのは、
全部を組み合わせた時に、どういうシルエットになるのか。

そこです。
私が狙ったのは、ブリティッシュらしいアワーグラスドレープ。

着丈は、現代の一般的なスーツより長めに設定しました。
重心も少し低くする。
でも、ジャケットのウエストシェイプまで低くしてしまうわけではありません。

そこは高い位置で、しっかり絞る。
着丈は長い。
重心は低い。でも、ウエストシェイプは高い。

この組み合わせで、砂時計のようなシルエットを作る。
ここにはかなりこだわりました。

クラシックは、古く作ればいいわけじゃない。

1950年代頃のスーツには、かなり影響を受けています。
でも私は、1950年代のスーツを復刻したかったわけではありません。

昔のスーツをそのまま再現して、「ほら、クラシックでしょう。」
では、私にはあまり意味がない。

私が見ていたのは、その時代のスーツが持っていたバランスです。
なぜ、この着丈なのか。
なぜ、この位置に重心があるのか。
なぜ、ここでウエストが絞られているのか。

その構造を一度自分の中に入れて、今、自分が着るスーツとして組み直す。
だからこれは、1950年代のスーツではありません。

私のスーツです。

完成した時、「これだ」と思いました。

実際に出来上がった一着を着た時。
それまで、自分がお客さんとして作ってもらっていたスーツとは明らかに違いました。

感じたのは、【重厚感。】

ただ大きいわけじゃない。
ただ昔っぽいわけでもない。
身体の周りにちゃんとスーツがあって、それでも野暮ったく見えない。

狙ったシルエットが、そのまま出ていました。

自分の中では、完璧でした。

だから、この一着を作ったあとに考えたんです。
これを、もっと突き詰めたい。

仕立ても含めて、Order Suit KAMAKURAとして一番上まで持っていきたい。

そこから生まれたのが、『Newsman』です。

つまりNewsmanというモデルを先に考えて、このスーツを作ったわけではありません。

逆です。このスーツが出来たから、Newsmanを作りました。
そして、「究極の普通」へ。
今なら、この一着をもう少し違う言葉で説明できます。

「究極の普通」です。
ネイビー無地。
3ピース。
奇をてらったところはありません。

でも、普通だから何でもいいわけではない。

肩。着丈。胸のゆとり。ウエスト位置。重心。股上。
パンツの太さ。
一つひとつに理由を持たせて、その全部が噛み合った時に初めて、
普通なのに、なんか格好いい。になる。

このスーツを作った頃、今ほど「究極の普通」という考えを整理して言葉にはできていませんでした。

でも、振り返ると、
もう、この一着でやっていました。
今、同じスーツを作るなら?

改めてこの写真を見て考えました。
あれから自分でも何着も作りました。
採寸もしてきた。
数値も随分動かしてきました。
「究極の普通」という、自分なりの基準もできました。

じゃあ、2026年の今。
このスーツをもう一度作るなら、どこを変えるか。
ラペルをもう少し広くするか。
着丈を変えるか。
パンツを変えるか。

……変えません。
これは、これじゃなきゃダメです。^_^
後からNewsmanという名前がつき、さらにその先で「究極の普通」という言葉に辿り着いた。
でも、その前に作ったこの一着には、
今の私が大事にしているものが、もうほとんど入っていました。

私にとっては、

Newsmanのプロトタイプであり、
「究極の普通」の原型でもある一着です。

今回の一着

生地 KUNISHIMA1850/キッドモヘア混ウール・ネイビー無地
季節 春夏
仕様 3ピース/三つボタン中掛け
ラペル 9.5cm・ゴージ低め
パンツ 股上29cm/インタック/帯幅5cm
シルエット アワーグラスドレープ
位置付け 後の『Newsman』につながるプロトタイプ

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