「明らかに違いますね!」――すべては、この一着から始まりました。
このお客様とは、今では何着もお任せいただいているお付き合いです。
スーツだけでなく、スラックスやシャツまで。
でも、その始まりはこの一着でした。
ある日、Webサイトのお問い合わせフォームから、
「是非、採寸と注文をお願いしたい。」というメールをいただきました。
GoogleマップからOrder Suit KAMAKURAを見つけ、Webサイトまでかなり読んでくださっていたようです。
このサイトのお問い合わせフォームの最後に、
「お好みのスタイルがあれば教えてください」という質問があります。
例えば、映画『キングスマン』のハリー・ハートのダブルなど。
そこにお客様が書いていたのが、『ボードウォーク・エンパイア』。
「あ、この人とは話が合いそうだな。」最初から、そんな感じがありました。
オーダースーツは、初めてではありませんでした。
実際にお会いして話を聞くと、それまでもほとんどオーダースーツを着ていたそうです。チェーン系のオーダー店も利用されていました。
でも、話をしていると、「なんだかね〜」という感じがある。
ご本人も、何かが違うと感じていたんだと思います。
実際、それまで作ったスーツも見せていただきました。
私も採寸士として見ましたが、正直、、、
「これは、まだ出来ることがあるな。」と思いました。
サイズが合っていない、という単純な話だけではありません。
もっと話を聞けば、この人が本当に着たいものは違うところにある。
そんな感じがしました。
「鎌倉さんみたいなクラシックスタイルがいい。」
Webサイトを見て、そう思ってくださったそうです。
そして採寸当日。
私が着ていたスーツを見て、「そういうのが欲しいです。」
と言ってくれました。
『ボードウォーク・エンパイア』のナッキー・トンプソンが好き。
クラシックなスーツが好きなのは、もう分かっています。
ただし、ドラマの衣装をそのまま再現すればいいわけではありません。
実際に着るのは現代です。
しかも、仕事ではお客様と向き合う立場。
だから、好きなクラシックと、今のお客様の仕事。
その両方が成立するところを探しました。
ここは、かなり話をしました。
「KUNISHIMAがいい」は、最初から決まっていました。
生地についても、Webサイトを読んでくれていました。
そして最初から、「生地はKUNISHIMAがいい。」と。
そこで、それぞれの生地の特徴を説明した上でご提案したのが、
KUNISHIMA1850 Exclusive Line。
KUNISHIMA1850の中でも最上位に位置するラインです。
選んだのは、ネイビー無地。
実はこれにも理由があります。
お客様が持っているスーツを、一通り見せてもらいました。
そこで気づいたんです。
【ネイビー無地が一本もない。】
これは絶対にあった方がいい。そう思いました。
お客様と向き合う、高度な仕事をされている方です。
柄物や個性的なスーツもいい。
でも、その前に、
どんな場にも馴染み、それでいて本人をきちんと見せてくれる一本が必要です。
だから私は、
「まず、ネイビー無地を作りましょう。」
と念を押しました。
私の「究極の普通」を、そのままぶつけました。
岸川様が気に入ってくれたのは、私自身が着ていたクラシックスタイルでした。
だったら中途半端に変えない。
私がスーツを作る時に考えている、「究極の普通」
についてもお話ししました。
派手なことをするわけではありません。
肩。
着丈。
胸のゆとり。
重心。
パンツの太さ。
股上。一つひとつを、その人の身体と全体のバランスを見ながら整えていく。
初回のNewsmanモデルは仮縫いも入れました。
一度形になったものを実際に着てもらい、そこからさらに微調整。
お客様が「こういうのが欲しかった」と言ったものを、単に真似るのではなく、
お客様が着る一着として成立させる。
そこまでやって、ようやく完成です。
「明らかに違いますね!」
完成した一着を着た時、お客様から出た言葉が、
「明らかに違いますね!」でした。
そして奥様からも、「カッコいい!」と。
私は、この奥様の一言もかなり大きかったと思っています。
自分で鏡を見て格好いいと思うのと、
一番近くにいる人から「カッコいい」と言われるのは、ちょっと違いますから。
そして、その場でもう、「もう一本作って下さい。」となりました。
まだ一着目を納品したばかりです。
でも、二着目の話が始まっていました。
私のスーツに取り憑かれた一着。
ちょっと大袈裟な言い方かもしれません。
でも今振り返ると、この一着からだったと思います。
その後、春夏の3ピース。
夏物。
スラックス。
シャツ。
お客様とのスーツ作りは、続いていくことになります。
たぶん、単に一着の見た目が変わっただけではありません。
「採寸士が作るオーダースーツって、ここまで違うのか。」
そこを感じてもらえたんじゃないかなと思っています。
私は最初から、スーツだけを見ていたわけではありません。
話を聞いて、
今まで着てきたものを見て、
好きなものを聞いて、仕事も考える。
その上で、
もし私がこの人だったら、何を着たいだろう。
そこまで自分に置き換えて考えました。
生地も、デザインも、採寸も、全部その後です。
「もっと、ちゃんと話さなきゃ。」
今、この一着を振り返って一番強く思うのは、実はこれです。
お客様がそれまで作ってきたオーダースーツを見た時、
正直、少し腹が立ちました。
「今までこの方に関わってきたオーダースーツ屋さん、何やってんだよ。」って。
でも今は、それだけではないことも分かります。
限られた時間の中で、たくさんのお客様を接客する。
一人の人間と、とことん話をする。
それが難しい店もあるでしょう。
だからこそ、
もっと、ちゃんと話さなきゃ。と思いました。
何が好きなのか。
何が嫌だったのか。
どういう仕事をしているのか。
どんなふうに見られたいのか。
そして、
なぜ今までのスーツに「なんだかね〜」と感じていたのか。
そこまで聞かなければ、採寸した数字だけでは分からないことがあります。
この一着を作って、私は改めて思いました。
だから、私のような「採寸士」という仕事が必要なんだ。
この一着はお客様にとって最初の一着でしたが、
私にとっても、
自分の仕事が何なのかを改めて確認した一着になりました。
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今回の一着
生地 KUNISHIMA1850 Exclusive Line
色柄 ネイビー無地
仕様 3ピース/クラシックスタイル
仕立て 仮縫いあり
設計 「究極の普通」を基準に、現代のビジネスで成立するクラシックへ
その後 納品直後に、二着目のご依頼へ


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