【一着の設計記録:任せられた一着】

ご納品スーツのご紹介

「もう任せる。」から始まった二着目。

最初にご注文いただいた時の理由は、意外と普通でした。
体型が変わって、持っているスーツがほとんど着られなくなった。
「せっかくだから、作って欲しい。」

そんな話から始まりました。
一着目を納品したあと、言われた言葉をよく覚えています。
「正直言って、舐めてた。」
こんな良いものが仕上がってくるとは思っていなかったそうです。

そして、もう一つ。
「こんなに履き心地のいいスラックスは初めてだ。」
これは嬉しかったですね。
高級だとか、格好いいとかではなく、履いた本人が身体で感じたことですから。

そして二着目。
細かい注文はありませんでした。
「もう任せる。」でした。

これは採寸士として嬉しい言葉ですが、同時に結構怖い言葉でもあります。
任されたから、好き勝手に作っていいわけではない。
むしろ逆です。
その人をちゃんと見ないといけない。

生地も、私が決めました。
選んだのは、KUNISHIMA1850のダークネイビー。
この方は会社を経営されています。

だからといって、「社長だから派手に」「高級感を出して」ではありません。
この方が持っている雰囲気を、ちゃんと出したい。
でも、どこへ着て行ってもスーツだけが浮かない。

その両方を考えて、私が選びました。
その人らしさは出す。
でも、その人の邪魔はしない。
今思えば、私が「究極の普通」と呼んでいるものに近い考え方だったと思います。

お腹が出ている。だから、大きくする。
ではありません。
今回、設計で特に意識したのがお腹まわりでした。

お腹が前に出ている体型の場合、そのまま作ると、ジャケットの前側がお腹に押されて跳ね上がってしまいます。
だからといって、単純に全体を大きくすればいいわけでもない。

必要なところに補正を入れて、前側がきちんと収まるように設計する。
体型を隠すためではありません。
その人が普通に立った時に、スーツも普通にそこにある。
その状態を作るためです。
こういうところは、完成したスーツだけを見ても、たぶん分かりません。

でも私は、こういうところをかなり見ています。
Newsmanにしたのは、私の我儘です。
一着目を気に入っていただいた。
二着目は「任せる」と言っていただいた。

だったら一度、私が今できる最高峰を着てもらいたい。
そう思いました。

これは、お客様から「一番上のモデルで」と言われたわけではありません。
私の我儘です。
だから今回は、Order Suit KAMAKURAの最上位モデル
『Newsman』で仕立てました。
毛芯の構成も変え、手縫いの工程も増えます。
ただ、手縫いが多いから偉いとか、高級だから良いという話ではありません。

私が見たかったのは、
この人を、今の自分が一番良いと思う仕立てで作ったらどうなるのか。
それだけです。

二着目は、配送しました。
本当なら、最後に着ていただいて、自分の目で確認したかった。
でも、お忙しい方です。
今回は予定が合わず、完成した二着目は配送でお届けしました。

だから、
「着た瞬間、こう言ってくれました。」みたいな綺麗な締め方はありません。

それでいいと思っています。
一着目を作って、「正直言って、舐めてた。」
と言われた。

そして二着目で、「もう任せる。」と言われた。
私にとっては、その間にあるものの方が大事です。

一着作って終わりではない。
着てもらって、感じてもらって、また次を任せてもらう。
その時は、前と同じものを作るのではなく、もう一度その人を見る。
今回の一着は、そうやって作りました。

今回の一着

生地 KUNISHIMA1850/ダークネイビー
モデル Newsman
設計 腹部の体型補正を含め、前身頃の収まりを調整
仕立て 毛芯仕様・手縫い工程を含むNewsman仕様

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