「喪服で結婚式って、どうなんだろう?」から始まった一着。
このお客様とは、スーツの仕事を始める前からのお付き合いです。
一緒にお仕事をしていた時代がありました。
その後、私がスーツの仕事を始めたことを話して、「じゃあ、作ってみようか。」
最初にお作りしたのは、シャツでした。
そこからしばらくして、
「冠婚葬祭で着られるブラックスーツが欲しい。」という話になりました。
ただ、話しているうちに少し引っ掛かったんです。
この方は、すでに喪服を持っている。
だったら、
「結婚式に、その喪服を着て行くのってどうなんだろう?」という話になりました。
黒なら、全部同じではない。
喪服も黒です。
今回作るスーツも黒です。
でも、私は同じものとして考えない方がいいと思っています。
葬儀へ参列するための黒と、結婚式や式典など、祝いの場へ出るための黒。
同じブラックでも、役割が違う。
お客様とも意見が一致しました。
だったら今回は、
「冠婚葬祭で何となく使える黒」ではなく、
“婚”にちゃんと寄せたブラックスーツを作ろう。
そう決めました。
生地は、限られた中から選びました。
今回はエントリーモデルでのご提案だったからです。
当然、選べる生地にはある程度の制限があります。
だからといって、「エントリーだから、この辺で。」
とは決めません。
その中から選んだのが、KUNISHIMAのブラック。
ウール100%。無地。
そして、式典の場で着てもきちんと見える、質の良い黒。
予算に上限があることと、考えないことは別です。
限られた条件の中で、どこまでその人に合う答えを探せるか。
私は、エントリーモデルでもそこは変えません。
腰は反っている。でも、背中は丸い。
そして、この方。かなり身体を鍛えています。
採寸して身体を見ると、いわゆる「S字体」でした。
腰は反っている。でも、上半身は猫背。
これ、少し厄介なんです。
単純に考えると、相反する補正を一着の中に入れることになります。
片方だけを見て補正すると、もう片方がおかしくなる。
だから、
逃がすところは逃がす。
補正で収めるところは収める。
その境目を考える。具体的にどうやっているかは……
ここから先は企業秘密です。(^^)
ただ、補正というのは、体型の特徴を全部消してしまえばいいわけではありません。
その人の身体は、その人の身体です。
無理に別人のような形へ持っていくのではなく、スーツを着た時に、その特徴が邪魔をしないところまで整える。そのくらいが私は良いと思っています。
ベストは、作りませんでした。
私は3ピースが好きです。
クラシックスーツなら、ベストがあった方が良い場面も多い。
でも、この方はかなりの暑がりです。
そして、「ベストは着ない。」だったら、作りません。
私が3ピースを好きだからといって、お客様まで3ピースにする必要はない。
今回はシンプルに2ピースです。
こういうところも、私の好きなスーツを作るのではなく、その人のスーツを作る。
ということだと思っています。
「こんなに変わるもんなの?」
納品の日。
試着して終わりにはしませんでした。
身体を動かしてもらう。
外にも出る。
自然光の中でブラックの見え方を確認する。
そして、実際に着て感じる暑さも確認する。
一通り確認したところで、出てきた言葉が、
「こんなに変わるもんなの?」でした。
私は、こういう言葉が一番嬉しかったりします。
高い生地だからでもない。
一番上のモデルだからでもない。
むしろ今回は、エントリーモデルです。
それでも、
着る人を見て、
用途を決めて、
身体を測って、
必要な補正を考える。
それだけで、スーツはちゃんと変わります。
今回作ったのは、
「何にでも使える黒いスーツ」ではありません。
この人が、祝いの場にちゃんと立つためのブラックスーツ。
そうやって考えて作った一着です。
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今回の一着
用途 結婚式・式典を中心としたブラックスーツ
生地 KUNISHIMA/ウール100%・ブラック無地
モデル Entry Model
仕様 2ピース
設計 S字体(反り腰+猫背)を考慮した体型補正



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