【一着の設計記録:不満には意味がある】

ご納品スーツのご紹介

「タイトにしてくれ」の、本当の意味。

今回ご紹介するのは、リピートでお作りいただいたお客様の秋冬スーツです。

実はこの方。
一着目を納品した時に、こんなことを言われました。

「正直、鎌倉さんのこと舐めてました。」(笑)
「スーツ作れるったって、たいしたことないやろ。」

・・・くらいに思っていたそうです。

それが一着目を着て、
「こんなにいいなら、もう一本秋冬のスーツも作って下さい。」

ご納品の場で二着目をご注文いただきました。

まあ、嬉しかったですよね。(^^)

「とにかくタイトにしてくれ」

この方から最初に言われていたご要望です。

ただ、身体を見て、今まで着ていたスーツの話を聞いていくと、少し違うことが分かりました。
この方は、かなりの怒肩です。

既製品のスーツをそのまま着ると、前ボタンのあたりが開いてしまう。
さらに以前、別のオーダースーツ店で作ったスーツは、それを解決するどころか、かなり大きく仕上がってしまったそうです。

だから、「タイトにしてくれ。」だったんです。

単純に細いスーツが着たい、という話ではなかった。
もう、ガバガバのスーツは嫌だ。
私はそう受け取りました。

細くする前に、原因を探す。
ここで単純に寸法を削ってしまったら、私は採寸する意味がないと思っています。

この方の場合、問題の大きな原因は「怒肩」でした。
ならば、そこに適切な補正を入れる。
身体の癖をスーツ側で受け止めてあげれば、必要以上に細くしなくても、きちんと身体に沿って見える。

一着目でそこをかなり細かく見ました。
だから二着目も、その補正は基本的に変えていません。

逆に今回変えたのは、スラックスです。

一着目より、ほんの少しだけゆとりを加えました。
0.5cmです。

細くしてほしいと言われているのに、太くする。
一見、逆ですよね。

でも全体を見た時、その方がジャケットとのバランスが良かった。
お客様の言葉通りに作ることと、お客様が格好良くなるように作ることは、必ずしも同じではありません。

二着目はCANONICO。

生地は秋冬物のCANONICO。

一着目もマイクロチェックでしたが、今回もご本人が選ばれたのはマイクロチェックでした。

そして元々3ピースがお好きな方なので、今回も3ピース。

一着目で身体の癖と補正値はかなり詰めています。
そこを土台に、二着目では全体のシルエットを微調整しました。

納品して着ていただいた時の言葉は、

「完璧じゃないですか。」でした。

よし。(^^)

「タイト」は、寸法ではないことがある。

採寸していると、お客様から色々な言葉をいただきます。

「細くしたい。」

「ゆったり着たい。」

「丈は短い方が好き。」
もちろん、その言葉は大切です。
でも私は、そのまま数値にはしません。

なぜ、そう思ったのか。

そこまで聞きます。

今回の「タイトにしてくれ」の背景には、以前作ったオーダースーツへの不満がありました。

だったら解決すべきなのは、「どこまで細くできるか」
ではなく、
「なぜ今までのスーツが身体に合わなかったのか」
です。

原因を見つけて、基準を定めて、補正する。
そこに、その人の好み、仕事、着る場面、背景を加えていく。

クラシックだから「究極の普通」なのではありません。
タイトなスーツでも同じです。
明確な基準を定め、現代に落とし込む。
そして、着る人の背景まで織り込んで仕上げる。

それが私の考える、「究極の普通」です。

今回の一着

生地
CANONICO(カノニコ)
秋冬物・マイクロチェック

スタイル
シングル3ピース

設計のポイント
・怒肩に対する体型補正
・タイトな印象を保ちながら、必要なゆとりは残す
・一着目の補正値をベースに設計
・全体のバランスを見て、スラックスに0.5cmのゆとりを追加

お客様のご要望
「とにかくタイトにしてほしい」

設計で考えたこと
単純に細くするのではなく、「なぜ今までのスーツが合わなかったのか」を先に解決すること。

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